東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14796号 判決 1990年7月27日
亡嶋根孝平承継人
原告
嶋根ふみ
外四名
右原告ら訴訟代理人弁護士
高見澤昭治
同
齋藤雅弘
同
森田太三
被告
株式会社日本通商振興協会
右代表者代表取締役
藤嶋和郎
外一名
右被告ら訴訟代理人弁護士
浅井洋
主文
一 被告らは、原告嶋根ふみに対し、各自金五〇三万八六九七円及びこれに対する昭和五九年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告嶋根勝一に対し、各自金二五一万九三四八円及びこれに対する昭和五九年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告石田洋子に対し、各自金二五一万九三四八円及びこれに対する昭和五九年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告古谷寅吉に対し、各自金七三二万円及びこれに対する昭和五九年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告らは、原告岩田定治に対し、各自金六八〇万二七五五円及びこれに対する昭和五九年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 訴訟費用は被告らの負担とする。
七 この判決は、第一ないし五項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 承継前原告亡嶋根孝平(以下「亡嶋根」という。)は、本件当時(後記4(一)のとおり、パラジウム取引を勧誘された当時。以下同じ。)五六歳の男性で、昭和五七年九月柏市役所を退職したのち農業を営むかたわらアパート経営をしていた者であり、原告古谷寅吉(以下「原告古谷」という。)は、当時八一歳の男性で、無職であった者であり、同岩田定治(以下「原告岩田」という。)は、当時六一歳の男性で、洋服仕立業を営んでいた者であり、いずれもパラジウムなどの商品先物取引にはまったく無知、未経験であった(以下三名をまとめて「原告ら」という。)。
なお、原告岩田は、過去、協和物産からプラチナの取引を勧められ、一回(一枚)だけ購入したことがあったが、そのときも損失を被ってそのまま取引を終わっていた。
(二) 被告株式会社日本通商振興協会(以下「被告会社」という。)は、貴金属などの売買取引の仲介、斡旋業務などを目的として、昭和五八年一〇月二二日に設立された株式会社であり、株式会社日本通商振興協会中央市場と称する商品先物取引市場(以下「被告市場」という。)を開設、運営している。
被告藤嶋和郎(以下「被告藤嶋」という。)は、被告会社の代表取締役であって、被告市場の企画、設立者である。
(三) 協和物産株式会社(以下「協和物産」という。)は被告市場における売買取引の受託業務を行なっている会社である。
2 被告市場設立の経緯
(一) 被告藤嶋は、昭和四八年ころ、公設の商品取引所の商品取引員であったトミ商事株式会社(旧商号マルキ商事株式会社。以下「トミ商事」という。)の株式を買い取り、同社の代表取締役に就任した。当時、トミ商事の幹部は、商品先物取引を利用し委託者から金員を騙し取ったとして、詐欺罪で起訴されて裁判中であった。被告藤嶋は、このような会社の経営を積極的に引き受け、自ら商品取引業務を遂行していたもので、商品取引業界の実態や体質を十分了知していた。
(二) 被告藤嶋は、昭和五三年初めころ、休眠法人であった社団法人日本通商振興協会(以下「社団協会」という。)の理事に就任し、金の先物取引を行なう市場部門を開設した。当時、金の私設市場における顧客の被害が続出していたが、被告藤嶋は、わざわざこの時期に金の私設市場を開設したことになる。
右市場には、二十数社の加盟業者があり、金の「現物条件付保証取引」という名称で、実質的には先物取引を行なっていたが、ここでも本件原告らと同様、加盟業者の顧客らに被害が発生していた。
このため、社団協会の主務官庁である通産省が異例の立ち入り検査を実施し、「社団協会にとって、金の市場運営が目的外の事業であること」「私設の金市場を開設・運営することは、公益上好ましくないこと」を理由として解散勧告をする事態となった。
(三) こうして、社団協会が継続して市場を運営していくことが困難となったため、被告藤島は、昭和五五年五月には社団協会の事務所と同一の場所を本店所在地とする株式会社中央貴金属市場(以下「中央貴金属」という。)を新たに設立し、同社に市場の運営をそっくり引き継がせた。
ところが、その後昭和五六年九月、金が商品取引所法二条二項の政令指定商品とされ、昭和五七年三月から公設の商品取引所での取引が開始されたため、右市場で金の先物取引を行なえなくなると、取扱商品をプラチナに変更し同様の市場運営を継続したが、やはりプラチナ取引に関しても顧客に多数の被害が発生していた。
(四) さらに、昭和五八年一〇月、プラチナも右政令指定商品とされ、右市場でプラチナの先物取引を行なえなくなると、こんどは、取扱商品をパラジウムに変更し、やはり同様の市場運営を継続したが、これと相前後して、同月二二日に被告会社を設立し、それまで中央貴金属が行なっていた市場運営を被告市場に引き継がせた。
(五) 被告藤嶋は、右のとおり、取扱商品が政令指定され、公設の先物取引市場が開設されたにもかかわらず、自ら開設・運営する私設市場を閉鎖せず、取扱商品を変更して継続させていったが、その目的は、顧客(委託者)に損をさせて儲けている加盟業者の利益を確保させることであった。
3 被告市場の実態
(一) 商品取引所法八条違反
被告市場における「現物条件付保証取引」と称する取引は、先物取引(商品取引所法二条四項の規定する「売買当事者が、取引所の定める基準及び方法に従い、将来の一定の時期において、当該売買の目的物となっている商品及びその対価を現に授受するように制約される取引であって、現に当該商品の転売または買戻しをしたときは、差金の授受によって決済することができるもの」)にほかならず、主務大臣の許可を受けずにこのような市場を開設することは、商品取引所法八条に違反し、刑事罰の対象ともなる違法な行為である。
被告市場の「約款」と題する文書には、先物取引の実質と同義の内容が記載されているし、原告らと協和物産との間の被告市場における取引の実際は、中途での転売・買戻が常態となっている。また、協和物産の原告らに対する勧誘や取引の経過も、先物取引であることを前提としたものであった。
(二) 被告市場の組織と運営
(1) 被告市場の中央取引市場運営委員会(理事会)の実質
被告市場には、市場運営の基本となる規定の制定や顧客・会員間の紛議の調停などを目的とする中央取引市場運営委員会(理事会)が置かれているが、その委員となるのは、被告市場の役員(実際には、被告藤嶋など)、在京の有力会員などであって、実際の被選任資格などないに等しく、単に体面を繕うためのお飾りの機関に過ぎなかった。
(2) 被告市場の会員資格審査委員会の実質
被告市場には、会員資格審査委員会が置かれているから、新規の加入者に対しては、右委員会が資格審査を実施したうえで入会の許否を決しているかのように見える。
しかし、実際には、推薦者が入会申込書に判を押しさえすれば、そのまま入会が認められる扱いとなっており、入会の許否を判断する基準も特段決められておらず、推薦者も従前から被告市場に加盟していた会員に過ぎなかったから、入会審査の機能を実質的に果たしていなかった。
(3) 加盟会員は「値決め担当者(場立)」を市場に派遣していない
被告市場の規定上は、各加盟会員が自ら「値決め担当者」を被告市場に派遣して値決めを行なうことが原則とされているが、実際には、加盟業者から被告市場に「値決め担当者」が派遣されたことはない。
公設市場では、取引所の行なう試験に合格し一定の資格を有する者しか市場代表者(場立)にはなれず、取引所の会員が立会いに参加して取引を行なうには、必ずこうした有資格者を派遣して行なわなければならないことになっている。わが国の公設の商品取引所や被告市場がとっている「板寄せ方式」による値決めの場合、立会いにおける場の状況を的確に読み取って機敏に手振りをする必要のある場立の仕事は、それだけ重要で、熟練を要するものだからである。
このような場立を出さなくても立会いに参加できるということ自体、被告市場の信用性や公正さを大幅に減殺させるものである。
(4) 保証金の預託免除
被告市場の市場運営規定によれば、加盟業者は、被告市場に売買保証金を納入しなければならないものとされているが、被告市場と加盟業者との契約により、保証金の預託を要する場合を「片建玉」の場合に限定し、「両建て玉」すなわち売りと買い同数の注文を出す場合には保証金の預託を必要のないものとし、実際にもそのとおりに取り扱われていた。
(5) 保証取引の申込方法
また、同市場運営規定によれば、保証取引の正式な申込は、せり終了後一定時間内に、具体的な記載内容まで規定された「所定の伝票」によって行なわなければならないこととされているが、実際にこのような処理はまったくなされておらず、被告市場への売買申込は、すべて電話でのやりとりによっていた。
以上のとおり、被告市場の規定や組織、機関は、実際には、ほとんど機能しておらず、極めて問題の多い市場運営の実態を隠蔽するための形式的なものに過ぎないのであって、実際の市場の運営は、加盟業者の違法な営業をやりやすくするためのものでしかなかった。
(三) 被告市場の値決めの実態
(1) 電話による競りの問題点
被告市場のセリは、加盟業者が電話の声を媒介にして被告市場の女性事務員らに注文の発声を復唱してもらうという間接的な伝達手段によっていた。このような方法は、そもそも場全体の状況を瞬時に把握し、判断しながら的確に手振りをしていかなくてはならない「板寄せ」という値決めにまったく不向きなものである。敢えて、このような方法を採用していることは、被告市場の値決めが「板寄せ」という複雑な機序をたどらなくても決っていたことを意味する。
(2) 一社のみのバイカイにより価格が決定されている場節が多い
昭和五八年一一月二四日から昭和五九年六月二九日までの間に被告市場において値決めが行なわれた場節の総数は三二五六あるが、このうち相手の違う業者の注文が組み合わさって売買が成立し価格が決定された場節は、わずか四六三しかなく、その他の場節の大半は、同一業者一社のみの「バイカイ」(売りと買い同数の注文)により価格が決定されているか(しかも、右「バイカイ」は、売りと買い一枚ずつの場合が多い。)、あるいは、そうでなくとも、「バイカイ」の注文が二社以上から出されることによって価格が決定されている。
また、複数の業者がセリに参加したように見える場節であっても、最終的には、一社の「バイカイ」注文のみを残して他のすべての業者が注文を撤回してしまっている。右の場合、「バイカイ」注文を撤回しなかった業者は、当該立会いの日の当番業者である例が多い。多数の業者が、それぞれの相場観や思惑を持ってセリに参加しているのであれば、このように一定の規則にしたがって特定の業者の注文だけが残り、他の業者の注文が撤回されてしまうこと自体極めて不自然・不合理なことである。
しかも、このように同一業者による「バイカイ」によって決定された価格の大半は、直前の場節の値段ないしは基準値から変動したものとなっている。
(3) 実際の立会いに注文を発する業者数が限定されている
被告市場では、実際の立会いに注文を発する業者は、非常に限定されている。一つの場節のセリに参加した業者の数は、せいぜい一〇社程度であり、一日の場節全体を通して注文を発した業者数もやはり同程度しかない。
このくらいの取引規模であれば、意図したとおりに値決めすることまではともかくとして、少なくとも、それまでの前の場節あるいは前日の価格を上昇させたり、下落させるなどして相場の価格を操縦することは、加盟業者の意図である程度自由にできたものといえる。
(四) 被告市場における価格の不公正
(1) 値幅制限がないに等しい
被告市場の値幅制限は、当月渡しの基準価格の2.5ないし三パーセント、あるいは、前日の引け値の一〇パーセント以内とされている。
しかし、このように二重の基準を設けることは不合理であるし、先物取引の価格は限月ごとに決められるものであるから、値幅制限も各限月ごとに定められなければ意味がないものである。さらに、被告市場の保証金率が一〇パーセント程度であることと比較すると、右一〇パーセント以内という値幅制限では、預託した保証金分がすべて損勘定となっても取引がストップされないことを意味し、実際上、値幅制限としての機能を果たさないことになる。
被告市場の場合、現実にも、前記2.5パーセントの値幅制限を超えて値動きしている場節が存する。
(2) 基準値制度
被告市場は、ニューヨーク市場(おそらく、ニューヨーク・マーカンタイル取引所と思われる。)のパラジウム価格を用いた「基準値」なる制度をとっている。
被告市場においては、ごく少数の業者(ほとんどの場合、一社)が自分で値決めする場合が多く、業者らの意図だけに任せておくと、その価格が海外のパラジウムの現物・先物相場、国内の現物相場と乖離してしまい、たちどころに被告市場の不正なからくりが露見してしまうから、それを回避し、毎日の価格を軌道修正するために、ニューヨーク市場の前記価格を「基準値」とし、そこから商いを開始していたのである。
単一約定値段をとる公設の商品取引所で、当日の始値を前日の終値から始めないところはない。公正なセリ売買の結果ついた値段は、需給バランスやその他様々な要因を踏まえて公正に形成された価格といえ、これに取引所自ら修正を加えて取引を行なわせる必要などない。自己の市場で成立した値段に、まったく別の要因から修正を加えることは、自己の市場における価格形成が不公正なものであることを自認するものにほかならない。
実際、被告市場で決められた価格の変動の趨勢と、「基準値」の変動の趨勢とが食い違っている場面が少なくない。
(3) 逆ざや傾向が強い
パラジウムのような貴金属の先物価格は、かなりの蓋然性をもって、「現物価格プラス金利プラス保管料」となるように推移する。そして、金利と保管料は、期間が経過すればするほど増加していくものであるから、限月が後のものほど、限月が前のものに比べて価格が高くなるはずである。
しかし、被告市場の場合には、むしろ、限月が後のものよりも、前のものの方が価格が高くなっている(逆ざや)場合の方が、はるかに多くなっており、「基準値」自体からして逆ざやに決めているものが多数ある。
こうした現象は、被告市場における価格が、多数当事者が参加した自由な価格競争の結果に基づくものでなく、何らかの人為的な操作が加えられていることを裏付けている。
このように、被告市場における値決めの実態は、加盟業者が、かなりの蓋然性で自分の意図する価格を決めることも可能なものであったし、自分の意図する方向に価格を上昇あるいは下降させるだけなら、かなり自由に行なえたもので、現実にもこのような値決めがなされていたものといえる。
そして、被告市場は、このような値決めがなされていることを知悉しながら、加盟業者に便宜な市場運営を行なっていたものである。
(五) 加盟業者の被告市場における取引の実態
(1) ほとんどの注文が加盟業者が「向い玉」を建てた「バイカイ付け出し」である
被告市場において、加盟業者は、立会いにほとんど注文を出さないか、出してもわずか一枚ないし数枚程度にとどめ、その他の注文のほとんどは、立会い終了後、既に成立した価格によって売りと買いを同数にし被告市場に取り次いでいた(「バイカイ付け出し」)。
被告市場における取引は、ほとんどすべてが売りと買い同数の「バイカイ」であったが、これは加盟業者が積極的に自己の計算で顧客の注文と反対の建玉をして売りと買いが同数になるように揃えて注文を出していた(「向い玉」)からにほかならない。
また、商品取引市場において、当該商品の公正な価格形成が行なわれるためには、多数の売手と多数の買手が売買に参加して正しい競争によってセリあいを行なうことが前提となるが、「バイカイ付け出し」は、注文執行の立会いに参加することなく、売買取引を成立させる手続であって、公正な価格形成に何ら寄与しない商品取引市場の機能を損うもので、本来例外的にしか認められるべきではない。
しかしながら、被告市場においては、「バイカイ付け出し」に関し枚数その他何らの規制もないうえ、当該場節で成立した価格による注文について、次の場節の開始までに発しなければならないという時間制限すらなかった。
(2) 「向い玉」の目的
「向い玉」を建てた場合、顧客と業者の利害が相反し、顧客の建玉と業者の「向い玉」とを同時に仕切れば、顧客が損した分だけ、業者の「向い玉」は利益となる。被告市場における顧客の建玉と業者の「向い玉」とは、新規建玉から仕切りまで運命を共にしており、そのほとんどについて、顧客の損が業者の利益となって取引が終わっている。
加盟業者は、「バイカイ付け出し」により、いったん価格を決めてから(業者が自分で決めた場合)、あるいは、いったん価格が決ってから(他の業者が決めた場合)、その価格で仕切ったり新規に建玉したりすると都合のよい建玉の状況にある(損勘定となっている)顧客を選び、向い玉を建てて売りと買いを同数にしたうえで被告市場に注文を取り次いでいたのである。
被告市場においては、前記のとおり、「バイカイ付け出し」に関し枚数も時間制限もなかったから、加盟業者は、その日の内であれば、どの場節の価格であろうと自由に選択し、顧客の建玉に自己玉を向かわせて、売買を成立させることができた。
加盟業者は、強引に自己に都合のよい建玉の承諾をとりつけ、顧客の損を自己の利益に振り替えたり、後日、このような手法をとりやすいような価格で新規の建玉(それも大抵は、「増し建玉」や「両建て」であった。)をさせるとともに、顧客の損を自己の利益として取り込むために積極的に「向い玉」を建て「バイカイ」を振っていた。
前記のとおり、加盟業者は、売りと買いが同数の注文を出す場合、被告市場に保証金を預託する必要がなく、顧客から預った保証金をそのままずっと手元に留めておくことができたから、顧客を操縦して結局返還する必要がないように仕向け、これを自己の儲けとして、営業経費や役員・従業員の報酬・給与として処分・費消してしまっていた。
(3) 「向い玉」の違法性
「向い玉」は、業者の違法な行為の手段として利用されやすく、現実にも違法な詐欺行為の手段として利用されてきたもので、公設の商品取引所でも「向い玉」を規制するために、「自己玉」の規制がなされてきた。
被告市場全体が、ほとんどすべてこのような「向い玉」で占められていたことは、異常と評されるべきで、「向い玉」が加盟業者により積極的に詐欺行為に利用されていたことの証左でもある。
被告市場は、このように加盟業者が金員不正収奪のための恣意的な価格設定・便宜な取引の執行を行なえる場を積極的に提供して、活用させていたのである。
4 協和物産の不法行為
(一) 勧誘・取引の経過
(1) 亡嶋根
亡嶋根は、昭和五八年から翌五九年正月にかけて、協和物産から、「うまい利殖の方法があるので話だけでも聞いてくれ。」としつこく電話で勧誘されていたが、断り続けていた。
しかし、昭和五九年一月六日、突然協和物産の社員である下玉利充(以下「下玉利」という。)及び家中文雄(以下「家中」という。)の訪問を受け、パンフレット類や新聞記事を見せられながら、「パラジウムという貴金属がどんどん値上がりしているが、今買っておけば極めて貴重な金属だから、一か月くらいで倍になる。」と説明され、執拗に取引を勧誘された。
亡嶋根は、半信半疑で聞いていたが、世界情勢などを折り込みながら、パラジウムの使途や今後の値上がりの見通しをあれこれ自信たっぷりに六、七時間も説明され、さらに、「儲けて、二人でハワイにでも遊びに行ってください。」などとまくしたてられたため、ついついそんなに儲からなくとも絶対損をせず、一か月くらいで換金できるのであれば、少しは買ってみようかという気持ちになって、亡嶋根にとっては大金の七〇〇万円もの取引に応じさせられてしまった。このうち四〇〇万円は納税用のものであったから、三月一五日までには全額返してもらいたいと念を押すと、「税金を納める日までには、必ず利を乗せてお持ちします。」「損をすることは絶対にありません。保証します。」と確約したので、協和物産の取引内容について、よく分からないまま、説明を信じて取引することを承諾させられた。
同月一〇日、下玉利が金を取りに来たが、亡嶋根は、そのときまでに五〇〇万円しか用意できなかった。そのときも、「二、三月は、パラジウムの値上がりする時期だし、現に毎月値上がりしていますので、二月末までには倍にしてお返しします。」と説明され、契約書に署名・捺印させられた。
同月一二日、下玉利は、残りの二〇〇万円を取りに来たが、そのときにも、「この間に、一グラムあたり四〇円以上も値上がりして七〇〇万円にもなっています。どうですか、もう少しやりましょう。」などとさらに大量の取引を勧めてきたが、亡嶋根は断った。
同年二月一日、下玉利は、「だいぶ儲かっているので、ここでいったん全部売って利益を取り、前の保証金七〇〇万円とあわせて一一七枚買いましょう。」と先物業者の常套手段である利乗せ売買を勧めてきたが、亡嶋根は断った。しかし、「税金を支払うまでには、だいぶ日数があり、もっと儲かる。」と強引に勧められ、結局、同年三月一五日までには、必ず全額を返してもらうことを念押しして、利乗せ売買を承諾させられた。
その後、値段は上がらず、かえって下がることもあり、妹の病院費用で現金が必要となってきたので、取引を全部仕切ってくれるよう再三頼んだが、協和物産は、同年二月一三日に七枚だけ仕切ってくれただけで、残りの一一〇枚は、「大丈夫。税金には絶対間に合わせるし、それまでに大きく儲けましょう。」というだけでとりあわず、仕切を拒否した。
ところが、同月二九日、突然値が下がったと連絡され、五八〇万円の追証金を要求された。「そのような話は聞いていないし、五八〇万円ものお金を支払えない。」と断わり抗議すると、今度は「両建て」を強引に勧められ、同年三月一日、これを承諾させられた。
しかし、亡嶋根は、「両建て」をした後、その保証金として一一〇〇万円もの金額を請求され、支払うあてもなく困っていたところ、下玉利は、「私の知り合いで、月三分の利息で貸してくれるところがあるので、そこで借りたらどうか。」と貸金業者からの借金を勧めてきた。亡嶋根は、追いつめられた状況では、やむなく応じるしか道はなく、紹介された業者から四〇〇万円を借りることになったが、その手続も白紙の書面に署名捺印だけを求められるなど、不審な点が多く、下玉利と貸金業者との間で意を通じて行なった可能性が強い。
こうして、協和物産は、亡嶋根を錯誤に陥れて、被告市場のパラジウム先物取引に引き込み、保証金及び手数料名下に一八〇〇万円を交付させて、その後「利乗せ売買」「両建て」を繰り返しながら、一七六二万九〇〇〇円の損害を与えた。
(2) 原告岩田
原告岩田は、昭和五八年一一月初旬ころ、協和物産からパラジウム売買の勧誘の電話があり、同月一八日、下玉利の訪問を受けた。「パラジウムは、今が一番底値だが、一二月ころは、いつも上がるから間違いなく儲けられる。」とか「青梅のお客さんも、何かよい利殖法はないかと相談され、現在三〇〇枚近くも買って満足していただいている。」とか、執拗に取引を勧誘され、「お金がないから駄目だ。」と再々断わる原告岩田に対し、「お金の心配は入らない。土地を担保に借りればよい。」「今は一キログラム一一二〇円だが、必ず儲かるから、一一〇〇円を切れたら買えばよい。」と執拗に虚偽の事実を申し立て、次から次へと甘言を弄して、違法な勧誘を行なった。
原告岩田は、パラジウムの取引をする意思もなく、またちょうど外出する用事があったため断わったが、下玉利は帰ろうともせず、お互いに押問答が続いた。執拗な勧誘に困惑した原告岩田は、このままでは、とても帰ってもらえそうもないため、「それでは、一一〇〇円を切れたら、私に知らせてくれ。」と言い、取り敢えず下玉利を帰らせることにした。この際、原告岩田は、売買の指示、注文を一切出しておらず、また保証金がいくら必要であるかについても説明を受けていなかったし、約諾書などに署名捺印もしていない。
ところが、同月二一日、下玉利は、突然、「値段が一一〇〇円を切れましたから、一〇〇枚買いました。ついては、一五〇〇万円必要ですから用意してください。」と催促してきた。びっくりした原告岩田は、「そのような依頼はしていない。」と抗議すると、「すでに買ってしまったものは仕方ありません。」「一二月中には、必ず儲かりますから心配ありません。」と執拗に繰り返され、こうした取引に無知、未経験だったこともあって、やむなく右取引を承諾させられた。
翌二二日、下玉利が原告岩田宅に来て、始めて約諾書などを作成させた。原告岩田は、一五〇〇万円もの大金を準備するあてはなかったので、下玉利のことばを信じて従うほかなかった。下玉利は、「私に任せてください。」「うちの会社がよく知っている金融業者がいる。金利も安いから、そこでお金を借りましょう。」と協和物産の実態を知悉している金融業者のところまで原告岩田を同行し、一一〇〇万円の融資を受けさせて、貸金業者から直接右金員を受け取って帰って行った。
その後、原告岩田は、下玉利から、「あと五〇〇万足りないから、不足分を何とかしてくれ。」と毎日のように執拗に催促されたが、努力しても一六〇万円しか用意できない旨伝えると、「それでは、買った一〇〇枚のうち二二枚は切りましょう。ただし、その手数料として六六万用意してくれ。」とさらに金を要求してきた。しかし、その金も結局三〇万円しか用意できなかった。結局、原告岩田は、この時点までに一九〇万円を支払った。
同年一二月二〇日ころ、原告岩田は、協和物産へ電話し、一キログラム一三〇〇円となっていることを聞き、すべての仕切りを要請した。ところが、夕刻、下玉利から、「一キログラム一二八一円で手数料を差し引いても一二九四万円の利益が出ましたよ。それから一六四枚買っておきました。」と報告された。無断の売買に原告岩田は抗議したが、下玉利は、「今は買っておく時期です。私に任せてください。これからまだ上がりますから、大丈夫ですから。」としつこく繰り返すのみでとりあわなかったため、結局しぶしぶ応じざるを得なかった。
ところが、翌昭和五九年一月六日、下玉利から突然値が下がったと連絡され、「両建て」を強引に勧められ、同月九日、訳の分からぬまま、これを承諾させられた。しかし、「両建て」をした後、その保証金として一〇〇〇万円もの金額を執拗に請求され、支払うあてもなく困っている原告岩田に対し、協和物産は、「お金が準備できないようなら決済する。損が多く出るから弁償してくれ。」と最後の連絡を受け、多額の損を生じて取引は決済された。
こうして、協和物産は、原告岩田を錯誤に陥れて、被告市場のパラジウム先物取引に引き込み、保証金及び手数料名下に一一九〇万円を交付させ、その後「利乗せ売買」、無断売買、「両建て」を繰り返しながら、同額の損害を与えた。
(3) 原告古谷
原告古谷は、昭和五九年一月二八日夕刻、家中及び協和物産の従業員である小原正巳(以下「小原」という。)の訪問を受けた。家中らは、パンフレット類を示しながらパラジウムの取引について説明した後、「我が社は皆様の財産作りの奉仕者です。」「絶対損はさせません。必ず儲かりますから取引をしていただきたい。」などとパラジウム取引を行なえば、利益を得ることが確実で損失を被る虞はまったくないかのように勧誘した。
原告古谷がこれを断わると、さらに同様な勧誘を続け、「では、月末三一日に必ず参りますから、お考え願いたい。」と言いつつ契約書を差し出して、署名捺印を求めた。署名は確約してからだと言う原告古谷に対し、「あまり堅苦しいことをおっしゃらずに、考え願う参考資料に置いていくものですから、軽い気持ちで署名してください。」と執拗に申し向け、いわば騙しの手口で署名を強要した。原告古谷は、要求に応じなければ家中らに帰ってもらえそうにもないので、その内容の説明もされぬまま、その説明を信じて署名捺印した。
翌二九日、原告古谷は、前日交付を受けた契約書を見るとパラジウムの取引単位がキログラムであり、その説明がなかったことから、金策などの理由で取引中止のやむなきに至ったと断わりの手紙を書いた。
翌三〇日、下玉利と小原が訪れたので、取引は中止した旨伝えると、「それは大変、七五万円の取消手数料を頂かねばならないことになります。いくらでもよいから買付注文に変更してください。」と強要し、やおら買付注文書を取り出して「三〇」と書き入れ、「これくらいでもお願いして頂きたい。」と執拗に勧誘するので、渋々応じざるを得なかった。
こうして、協和物産は、高齢で取引の仕組の分からない原告古谷を錯誤に陥れて、被告市場のパラジウム先物取引に引き込み、いうがままの取引をさせ、保証金及び手数料名下に一二八〇万円を交付させ、その後「利乗せ売買」、無断売買、「両建て」を繰り返しながら、同額の損害を与えた。
(二) 協和物産の勧誘行為の違法性
(1) 断定的判断の提供
商品市場における売買取引につき、顧客に対し、利益の生じることが確実であると誤解させるような断定的な判断を提供してその委託を勧誘することは、強く禁止されている。これは、商品先物取引が、出捐した証拠金を喪失する危険性の高い投機的取引である以上、当然の規制である。しかしながら、協和物産の勧誘文句は、断定的判断の提供そのものというべきで、しかも、極めて短期間に利益が出ることを強調して勧誘している。こうして、原告らは、「短い期間なら大丈夫だろう。」とごまかされて取引に引き込まれている。
(2) 強引な勧誘
協和物産の勧誘は、前記のとおり、極めて執拗かつ強引であり、顧客の正常な判断を麻痺させる半強制的な手口といえ、また取引の実態から見れば、明らかに虚偽の事実を申し立てた詐欺的なものでもある。
(3) 不適格者の勧誘
原告古谷は、主として恩給・年金・退職金・保険金などにより生計を維持する者に該当する。協和物産は、このような取引の勧誘不適格者に対しても強引かつ詐欺的な勧誘を行ない、商品先物取引に引き込んでいる。
(4) 無断売買
商品取引所法は、顧客の指示を受けないで業者が勝手に顧客の計算により売買取引をなすことを禁じている。無断売買が禁止されていることは当然のことであるが、原告岩田の場合、昭和五八年一一月二一日の七八枚(当初は一〇〇枚)の新規取引、同年一二月二〇日の一六四枚の新規取引及び昭和五九年一月九日の八〇枚の新規取引は、いずれも無断売買であり、原告古谷についても、同年二月二九日の五〇枚の新規取引は無断売買である。
(5) 「両建て」の違法
「両建て」とは、同一商品、同一限月について、売りまたは買いの新規建玉をした後に、これを手仕舞しないまま、反対の買いまたは売りの建玉をすることをいう。「両建て」を勧めることは、社団法人全国商品取引所連合会の受託業務に関する取引所指示事項一〇項で禁止されている。
協和物産は、亡嶋根と原告岩田に対し、パラジウムの値段が下がったと申し向け、損失を拡大させない方法があるなどと説明し、強引に「両建て」をするよう勧めている。
しかし、「両建て」を行なっても、売りと買いの建玉を同時に仕切ったのでは、既に生じた損失は固定したものとなり、委託手数料を倍額支払うだけのこととなるし、また、売りと買いの建玉を個々に有利な条件で仕切るとなると、最初の建玉を仕切り、新規に建玉をして差益を得ることと同じことになる。いずれにしても、「両建て」は、損失を生じた顧客の救済策として、何ら意味がない。
結局、「両建て」をさせることで、顧客の注文に対し全部「向い玉」を建てている加盟業者として、自社玉の利益を固定させるとともに、新規の証拠金を顧客から引きずり出すことを意図したものに過ぎない。
(三) 「バイカイ付け出し」及び「向い玉」による客殺しの手口・違法性
協和物産は、原告らの各取引のほとんどすべてを「バイカイ」あるいは「バイカイ付け出し」によって行なっており、場帳には取引の記載がなく、出来高表にのみ記載がなされている。これは、協和物産が原告らの各取引に関し、自己の計算で「向い玉」を建てて注文を出した結果であり、その意図するところは、加盟業者の被告市場における取引の実態において述べたとおりである。
すなわち
① 「向い玉」を建てる
② 立合い終了後に「バイカイ付け出し」をする
③ 「利乗せ売買」を行なう
④ 恣意的な値段の決定、操作を行なう
などして、いったん原告に利益を生じさせて安心させたうえ、これを新たな保証金に組み入れて取引数量を拡大させ(「利乗せ売買」)、原告らの損勘定となるような取引を仕向け、強引に承諾をとりつけて執行し、「向い玉」によって原告らの損失を意のままに業者の利益に振り替えていた。
協和物産は、原告らからの注文について「向い玉」を建て、売りと買いを同数にすることによって、被告市場から売買保証金の預託の免除を受け、原告らから預託を受けた取引保証金をそのまま手元で管理保管し、被告市場との間では、原告らの損計算と協和物産の「向い玉」による益計算とを相殺勘定で処理し、原告らとの間では、取引保証金が被告市場での取引で損失したかのように見せかけ、そのまま自己の利得として詐取していたものである。
協和物産の以上の行為は、取引の勧誘から注文、手仕舞まで、一貫して顧客の保証金の詐取に終始しているもので、およそ先物商品の取引などと呼べるものではない。
加盟業者によって市場の値段が決定される値決めの実態、「バイカイ付け出し」により立会い終了後の取引が可能であること、保証金の預託を免除するという加盟業者と被告市場との取決めなど、被告市場の仕組や運営の実態は、協和物産の右のような不法行為の温床であり、密接不可分なものとなっていた。
5 被告らの責任
(一) 被告藤嶋
(1) 被告藤嶋は、被告市場の前身で金取引を行なっていた社団協会の市場、プラチナの取引を行なっていた中央貴金属の市場など私設の商品取引市場において加盟業者らが違法、不正な勧誘、取引の手口により、一般大衆に多大な損害を与え、社会的批判を浴びていたこと、被告市場においても、加盟業者が多数の被害を出し、多くの顧客から損害賠償請求などの民事訴訟を提起され、さらに、刑事事件にもなっていることを知悉していた(加盟業者の刑事事件に関して、被告市場自体が警察の捜索・差押の対象とされた経験もあった。)。
また、被告市場におけるパラジウム取引の実際においても、加盟するほとんどの業者が「向い玉」を建て、売りと買いを同数にして注文を出していたこと、このような「バイカイ」の場合には、顧客の預託した売買保証金は被告市場へほとんど預託されることなく、加盟業者の手元に残されていたことを認識しており、加盟業者が顧客に損害を与える傾向が強いばかりでなく、自らの利益のために市場の価格を誘導していくものであることを認識しながら、違法な私設市場を自ら積極的に開設・運営していたものである。
したがって、被告藤嶋には、原告らに対する積極的、あるいは未必の加害の故意があったというべきであり、少なくとも過失があることは疑いようがない。
(2) そもそも、先物取引は極めて危険性、投機性が高い取引であるから、何ら公権的な規制のない被告市場のような私設市場は、それ自体存在の許されないものである。
そうであるとすれば、私設市場を開設、運営する被告藤嶋には、加盟業者の違法、不当な勧誘や取引行為により顧客に不測の損害を被らせることのないよう配慮ないし指導、監督すべき義務があるというべきであるから、被告市場が漫然と加盟業者の思惑通りの勧誘や取引をさせた場合には、右注意義務の違反があるというべきであり、いずれにしても被告市場における取引によって損害を被った原告らに対し賠償責任を負うものである。
(二) 被告会社
(1) 被告会社の認識は、代表取締役である被告藤嶋と同一とみるべきである。
(2) 被告会社は、会社全体としての営業活動そのものが不法行為に該当するので、被告会社自体が不法行為者として損害賠償責任を負う。
またそうでなくとも、被告会社の代表者である被告藤嶋の不法行為は、被告会社の業務執行によるものであるから、民法四四条一項により損害賠償責任を負う。
6 損害
(一) 出捐額
原告らは、前記のとおり、いずれも別表「支払年月日」欄記載の日に、同「支払金額」欄記載の金員を協和物産に支払い、同「出捐額」欄記載のとおりの出捐をしている(亡嶋根は、昭和五九年二月一三日、三七万一〇〇〇円の返還を受けている。)。
(二) 弁護士費用
原告らは、いずれも原告ら代理人に対し、別表「出捐額」欄記載の金員を基準として、東京弁護士会所定の着手金並びに報酬金の弁護士費用を支払うことを約したが、本件において原告らが支払うべき弁護士費用は、別表「弁護士費用」欄記載の金額が相当であり、右費用も被告らの不法行為と相当因果関係のある損害であって、被告らが負担するべきである。
(三) 請求額
原告らの損害額は、それぞれ右出捐額と弁護士費用との合計額、すなわち別表「損害合計額」欄記載の金額であるが、本訴提起後亡嶋根が合計九三一万四五〇五円、原告古谷が合計六七六万円、原告岩田が合計六二八万七二四五円の損害の填補をそれぞれ受けたから、原告ら各自の請求額は以下のとおりとなる。
(1) 亡嶋根 一〇〇七万七三九五円
亡嶋根は、昭和六三年六月二二日死亡したから、右損害賠償請求権は、同人の配偶者原告嶋根ふみが二分の一、同人の子原告嶋根勝一、同石田洋子がそれぞれ四分の一ずつ相続して承継した。
(2) 原告古谷 七三二万円
(3) 原告岩田 六八〇万二七五五円
7 よって、原告嶋根ふみ、同嶋根勝一、同石田洋子、同古谷、同岩田は、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ、各自五〇三万八六九七円、二五一万九三四八円、二五一万九三四八円、七三二万円、六八〇万二七五五円及びこれに対する不法行為の行なわれた日以降の日である昭和五九年三月一〇日(ただし、原告古谷及び同岩田については、昭和五九年四月一七日から)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1(一)のうち、原告らの身分、職業は認める。その余の事実は知らない。
同1(二)のうち、被告市場が商品先物取引市場であるとする点は争う。被告市場は商品の現物市場である。その余については認める。
同1(三)は認める。
2 同2(一)のうち、被告藤嶋がトミ商事の株式を買い取り、同社の代表取締役に就任したことは認め、その余は争う。
同2(二)のうち、被告藤嶋が、社団協会の理事に就任し、金取引を行なう市場部門を開設したこと、通産省が立ち入り検査を実施し、「社団協会にとって、金の市場運営が目的外の事業であること」を理由として解散勧告を受けたことは認める。「私設の金市場を開設・運営することは、公益上好ましくないこと」が解散勧告の理由となったことは否認し、その余は争う。
同2(三)のうち、被告藤嶋が中央貴金属を設立して、同社に市場の運営をそっくり引き継がせたこと、金の政令指定後、取扱商品をプラチナに変更し同様の市場運営を継続したことは認め、その余は争う。
同2(四)のうち、プラチナの政令指定後、取扱商品をパラジウムに変更したこと、被告会社を設立して市場運営を引き継がせたことは認め、その余は争う。
同2(五)は争う。
3(一) 同3(一)は争う。
被告市場で取り扱っていた「現物条件付保証取引」は先物取引とは異なる。
「現物条件付保証取引」の特徴は、
① 約束された受渡期日において、原則として現物の授受と代金決済が行なわれる取引であること
② 受渡期日まで転売買戻しを行なって売買関係から離脱することができないこと
③ 受渡期日に同時集中決済を行なうこと
などであり、先物取引のように、売買する当初から差金決済することが予定されておらず、受渡期日の途中での転売買戻しもできないものである。
また、商品取引所法八条が開設を禁止する「先物取引をする商品市場に類似する施設」とは、同法二条二項の政令指定商品を取り扱う市場である。仮に、被告市場の「現物条件付保証取引」が先物取引ないしはこれに類似するものだとしても、政令指定商品でないパラジウム地金を取り扱う被告市場は同法八条に違反するものではない。
同法の立法趣旨は、商品取引所に売買取引を独占的に集中させ、商品の流通の円滑と公正な価格形成を図ることにあるが、政令指定商品でない商品は、いずれの商品取引所にも上場されていないのであるから、その市場を私人が開設したとしても何らの弊害をもたらすものではない。
政府の公式見解(昭和五五年四月二三日付内閣法制局第一部長回答ほか)も右に述べたところと同様なものである。
さらに、仮に商品取引所法違反の市場を開設していることと当該市場における売買取引を委託した者に生じた損失との間に因果関係はない。
(二) 同3(二)(1)、(2)は争う。
被告市場は、その組織運営に努力していた。それが客観的に見て十分に機能していないことがあったとしても、程度・評価の問題に過ぎない。
同3(二)(3)は争う。
場立は加盟業者の意思を表示する機械のような存在に過ぎず、電話によって市場に注文が伝達されれば十分である。むしろ、場立が介在することによって不正を生むことすらあるのだから、むしろ、電話による方が公正ともいえる。
同3(二)(4)は認める。
保証金の預託免除の契約は合理的なものである。
同3(二)(5)は認める。
しかし、これは、被告市場と加盟業者との間に十分な信頼関係があったため、伝票提出による確認行為が不要だったからである。
(三) 同3(三)(1)は争う。
電話によるセリに何ら問題はない。
同3(三)(2)は争う。
一社のみの「バイカイ」には、本来「出来申さず」と表示されるべきものが多数含まれている。これらは前節の値段、あるいは基準値と同値であって、これをもって不正な値決めということはできない。
また、一社のみの「バイカイ」により前節の値段、あるいは基準値と異なる値決めがなされた場合であっても、セリが行なわれなかったことを意味するわけではない。注文が何社からも出ている場合、すべてが価格表に記載されているとは限らない。
同3(三)(3)は争う。
セリは売りと買いとの力関係によって価格が決るもので、市場の規模の大小から価格形成の不公正を論じることはできない。
(四) 同3(四)(1)は争う。
同3(四)(2)は争う。
基準値の制度は、世界市場の価格に連動させたものである。為替相場の乱高下、外国市場の乱高下によって右価格が左右されることに備え、前日値の一〇パーセントという一定の制限を設けて基準値としているもので、今日考えられる最も合理的な方法である。
同3(四)(3)は争う。
逆ざやは、相場状況によるものであって、それを捉えて不公正、違法な価格形成がなされているといえるわけではない。
(五) 同3(五)(1)ないし(3)は争う。
被告市場における取引に何ら不正の発生する余地はない。
4(一) 同4(一)(1)について
(1) 協和物産の小原が亡嶋根に架電し、パラジウム取引の勧誘を行なったのは、昭和五九年一月七日であり、同月九日原告方を訪問したところ、翌日訪問するよう約束された。
同月一〇日、小原及び家中が原告方を訪問し、パンフレット、取引約款、注文書、日経新聞記事、罫線などを見せて、パラジウム地金取引の仕組などを一時間半程度説明した。
亡嶋根は、運用量、どの位の値上がりで、どの位の利益が得られるのかなどについて質問し、十分な理解を示したうえ、六月受渡月のパラジウム五〇キログラムの買付注文を一〇九〇円以下の指し値で注文し、契約書、注文書にも署名・捺印した。
(2) 亡嶋根が協和物産に預託した取引保証金は、以下のとおりである。
昭和五九年一月一二日 五〇〇万円
同月一四日 二〇〇万円
同年二月一三日 三七万一〇〇〇円返還
同年三月一〇日 四〇〇万円
同月二四日 七〇〇万円
合計 一七六二万九〇〇〇円
(3) 亡嶋根の売買取引の損益は、以下のとおりである。
昭和五九年一月一〇日(新規取引の年月日。以下同じ。)の取引
利益金 五五〇万円
手数料 一五〇万円
違約処分による三〇キロ分の手数料九〇万円
差引利益金 三一〇万円
同年一月一二日の取引
利益金 一二六万円
手数料 六〇万円
差引利益金 六六万円
同年二月一日の取引
損失金 九九万九〇〇〇円
手数料 三五一万円
差引損失金 四五〇万九〇〇〇円
同年三月一日の取引
損失金 七三七万円
手数料 三三〇万円
差引損失金 一〇六七万円
同年三月一六日の取引
損失金 一三五〇万円
手数料 四五〇万円
差引損失金 一八〇〇万円
差引損失金累計 二九四一万九〇〇〇円
したがって、亡嶋根の預託した取引保証金はすべて右損金に振替充当された。
(二) 同4(一)(2)について
(1) 下玉利は、昭和五八年一一月二〇日、原告古谷方を訪問した。下玉利は、パンフレット、取引約款、注文書、日経新聞記事、罫線などを見せて、パラジウム地金取引の仕組などを説明した。
原告古谷は、右説明に十分な理解を示したうえ、四月受渡月のパラジウム七八キログラムの買付注文を一一一〇円以下の指し値で注文し、約諾書、注文書にも署名・捺印した。
(2) 原告岩田が協和物産に預託した取引保証金は、以下のとおりである。
昭和五八年一二月二日 九七一万円
同月七日 二九万円
同月一七日 一六〇万円
合計 一一六〇万円
(3) 原告岩田の売買取引の損益は、以下のとおりである。
同年一一月二一日の取引
利益金 一五二八万八〇〇〇円
手数料 二三四万円
差引利益金 一二九四万八〇〇〇円
同年一二月二〇日の取引
損失金 二二二八万四〇〇〇円
手数料 四九二万円
差引利益金 二七二〇万四〇〇〇円
昭和五九年一月九日の取引
損失金 二四八万円
手数料 二四〇万円
差引損失金 四八八万円
差引損失金累計 一九一三万六〇〇〇円
したがって、原告岩田の預託した取引保証金はすべて右損金に振替充当された。
(三) 同4(一)(3)について
(1)小原及び家中は、昭和五九年一月二八日、原告古谷方に架電して約束をとりつけたうえ訪問した。右両名は、パンフレット、取引約款、注文書、日経新聞記事、罫線などを見せて、パラジウム地金取引の仕組などを三時間程度説明した。
原告古谷は、右説明に十分な理解を示したうえ、六月受渡月のパラジウム二五キログラムの買付注文し、約諾書、注文書にも署名・捺印した。
(2) 原告古谷が協和物産に預託した取引保証金は、以下のとおりである。
昭和五九年二月一日 二五〇万円
同月一三日 二五〇万円
同月二四日 二万五〇〇〇円
同年三月二日 五〇〇万円
同年四月一七日 一〇〇万円
合計 一一〇二万五〇〇〇円
(3) 原告古谷の売買取引の損益は、以下のとおりである。
昭和五九年一月三〇日の取引
利益金 二一七万五〇〇〇円
手数料 七五万円
差引利益金 一四二万五〇〇〇円
同年二月八日の取引
利益金 一一一万円
手数料 七五万円
差引利益金 三五万円
同月二三日の取引
損失金 七二五万円
手数料 二〇四万円
差引損失金 九二九万円
同月二九日の取引
損失金 一〇〇万円
手数料 一五〇万円
差引損失金 二五〇万円
同年四月一一日の取引
利益金 一〇五万円
手数料 六〇万円
差引利益金 四五万円
同月一三日の取引
利益金 五二万円
手数料 二〇万円
差引利益金 三二万円
同月二四日の取引
損失金 二八八万八〇〇〇円
手数料 七六万円
差引損失金 三六四万八〇〇〇円
差引損失金累計 一二八九万三〇〇〇円
したがって、原告古谷の預託した取引保証金はすべて右損金に振替充当された。
(四) 同4(二)は争う。
原告らの取引について協和物産により無断売買が行なわれたことは否認する。
(五) 同4(三)は争う。
原告らに関する取引が行なわれた場節は、いずれも複数の業者から注文が出ており、セリが行なわれている。公平な価格形成が行なわれたことは疑いようがない。
5 同5は争う。
6 同6(一)は認める。
同6(二)、(三)は争う。
原告嶋根ふみ、同嶋根勝一及び同石田洋子の相続による承継の事実は知らない。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1(一)の事実のうち、原告らの身分、職業については、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、その余の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
同1(二)のうち、被告市場が商品先物取引市場であるという点を除き、当事者間に争いがない。
同1(三)の事実は当事者間に争いがない。
二被告市場設立の経緯、被告市場における取引の実態について判断する。
<証拠>によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
1 被告藤嶋は、昭和四八年ころ、尼崎市役所を退職して、公設の商品取引所の商品取引員であったトミ商事の株式を買い取り同社の代表取締役に就任した。
その後、昭和五三年初めころには、休眠状態にあって事業を行なっていなかった社団協会の理事に就任し、取引員となる業者二十数社を集めて「中央貴金属市場」と称する金地金を取引する市場を開設し、「現物条件付保証取引」と称する方法により取引員間の金地金の売買を大量、継続的に行なっていた。
被告藤嶋は、通産省が社団協会に対し立ち入り検査を実施するに至り、解散勧告を発したことを契機として、昭和五五年五月には、社団協会と別法人の中央貴金属を設立して金取引の市場を引き継がせて運営したが、場所、施設、取引員の構成、「現物条件付保証取引」と称する前記取引方法、立会いにおける値決めの方法など、その実質は社団協会の運営していた市場と何ら異なるところがなかった。
また、中央貴金属の取扱商品は、昭和五六年九月、金が商品取引所法二条二項の政令指定商品とされてからプラチナに、昭和五八年一〇月、プラチナが右政令指定商品とされてからパラジウムに、順次変更されていった。
さらに、被告藤嶋は、プラチナの政令指定を契機として、これと相前後する同月二二日に被告会社を設立し、被告市場を開設して中央貴金属の市場の設備、組織などをそのまま引き継がせ、同市場に加盟する取引員間において前記と同様の方法によるパラジウムの取引を行なわせた。
2 被告市場には、加盟、脱退による変動があるものの概ね三〇社程度の取引員が加盟しており、協和物産もその一つであるが、そこで行なわれる現物条件付保証取引と称する取引の内容は、当月を含めた向こう六か月の各月末日を商品と代金との受渡決済日と定めたパラジウムの売買取引であり、各取引員は電話で被告市場に注文を発して右方法による取引を成立させていた。
被告市場の定めた運営規定によると、取引員は、取引の都度、被告市場における取引の最小単位であるパラジウム一枚、すなわち一キログラムあたり二万円の売買保証金を被告市場に預託することとされており、また、価格の変動が大きくなって評価損が既に預託されている保証金の半額を超えた場合には追加保証金を預託しなければならないこととされていたが、取引員が売り・買い同数量を同時に注文するときには、取引員と被告市場との契約により、保証金を預託する必要がないものとされていた。
他方、顧客の委託により被告市場にパラジウムの取引を取り次ぐにあたって、取引員は、顧客から取引金額の二〇パーセント以内の保証金(ただし、一枚あたり一〇万円を最低限とする。)の預託を受けることができ、また、売り・買いそれぞれ一枚あたり一万円の取引手数料を徴収できるものとされていた。
3 被告市場の現物条件付保証取引約款には、受渡期日にパラジウム地金の現物と代金を授受して決済することとし、原則として転売または買戻しによる差金決済を行なわないことが規定されているものの、注文をしてから後、現物の引取や引渡の意思がなくなった場合には、反対の売買注文をして相殺計算により決済することが認められていた。
実際、被告市場に売りないし買いの注文が出されて取引が成立しても、その取引の大半は受渡決済日までに反対売買がなされて差金決済による処理が行なわれることが常態となっており、現実に商品と代金との授受による決済が行なわれたパラジウムの数量は、被告市場における総取引数量と比較して極めて少ないものであった。これを原告らの計算で行なわれた取引についてみても、受渡決済日までにすべて差金決済が実施されており、現実に商品と代金との授受が行なわれた例は皆無である。
4 被告市場では、一日に午前、午後各二場節の立会いが開かれており、右立会いの場において行なわれるセリによる値決めの方法の概略は、以下のようなものであった。
被告市場係員は前の場節の値段を唱えて売り注文と買い注文を促し、取引員から出された両者の注文の数量を差し引き計算して、売り注文が多いときには値段を下げ、買い注文が多いときには値段を上げて、売り注文と買い注文が同数になったときに取引成立とし、その際の値段を当該場節の市場価格として取引員らに発表していた。
ただし、その日の最初の場節の立会いでは、被告市場の前日の最後の場節の取引価格ではなく、ニューヨークの市場価格を参考にして被告市場が決めた値段を唱えて取引を開始しており、これを被告市場では「基準価格」と称していた。
ちなみに、被告市場におけるパラジウムの取引価格は、日時によって変動があり、また、受渡決済日の先後により差異があるものの、原告らの計算による取引が行なわれた昭和五八年一一月二一日から昭和五九年七月二六日まで(以下「原告ら取引期間」という。)をみると概ね一グラムあたり一〇〇〇円から一三〇〇円前後で推移していた。
5 原告ら取引期間に限ってみると、被告市場において取引員間で売買が成立したとされるパラジウム取引の数量(被告市場の出来高表に記載のある数量)のうち、立会いの場に取引員から実際に注文が出される数量は極めて少なく、当該場節のセリが終了し市場価格が決定してからのち、取引員が同数量の売りと買いの注文を被告市場に申し出ることによって、右価格による売買を成立させたもの(いわゆる「バイカイ付け出し」)が大半であった。
また、立会いの場に取引員から注文が出された状況をみても、取引員一社のみの売りと買い同数量の注文によって価格が決定されている場節が多く、そうでない場合でも、中途まで他の取引員が注文を発しているものの、後にその注文を撤回してしまい、結局取引員一社のみの売りと買い同数量(その数量自体も一枚ないし数枚で極めて少量の場合が多い。)の注文によって価格が決定されている場節が極めて多くなっていた。
協和物産が原告らから委託を受け(ただし、受託ないし取引の具体的な経緯は後記認定のとおりである。)、被告市場において原告らの計算による取引を行なった場節は、昭和五八年一一月二一日午前一場(四月限)、一二月二〇日午後一場(四月限)、同日午後二場(五月限)、昭和五九年一月九日午後一場(五月限)、同月一〇日午後二場(六月限)、同月一二日午前二場(六月限)、同月三〇日午前一場(六月限)、同年二月一日午前二場(六月限)、同日午前二場(五月限)、同月七日午前一場(五月限)、同月八日午後二場(六月限)、同月一三日午前二場(五月限)、同月二三日午前一場(六月限)、同月二三日午前二場(七月限)、同月二九日午後二場(七月限)、同年三月一日午前一場(五月限)、同月一六日午前二場(七月限)、同年四月一一日午後二場(七月限)、同月一三日午前一場(九月限)、同月二四日午前一場(七月限)、同日午前一場(九月限)、同日午前二場(九月限)、同年五月九日午前二場(七月限)、同日午前二場(九月限)、同月二八日午前二場(五月限)、七月二六日午前二場(七月限)の延べ二六場節であるが、このうち証拠上立会いの状況が明らかでない昭和五八年一一月二一日及び昭和五九年七月二六日の二場節を除くと、一社のバイカイのみで市場価格が決定されている場節が一七もあり(そのうち一四場節は、立会いに出された注文数量が売りと買い一枚ずつである。)、その余の場節も、異なる業者間で売買が成立してはいるものの、昭和五九年五月二八日午前二場(五月限)を除くと一枚ないし三枚という極めて少量の取引数量によって価格が決定されている。
右各場節のうち、協和物産が被告市場の立会いの場に実際に注文を発し、売り注文と買い注文が同数になって取引が成立し値決めが行なわれる段階まで注文を撤回しないまま維持していたのは八場節しかなく、その他の場節では原告らの計算による取引はすべてバイカイ付け出しの方法により被告市場に取り次いでいた。また右八場節についても、協和物産が原告らの計算による取引数量をそのまま立会いの場に注文として出したのは、昭和五九年三月一六日午前二場(七月限)と五月二八日午前二場(五月限)のみであり、その余の場節では、一枚ないし三枚程度だけ注文を発しているに過ぎない。その場合の協和物産の発した注文は売りと買い同数量の場合もあるし、売りないし買い一方の注文だけの場合もあるが、必ずしも原告らの注文と対応しているわけではなく、原告らの注文と反対の注文のみを立会いに発している場節もある。こうして、立会いの場に取り次がれなかった原告らの計算によるその余の取引分はバイカイ付け出しの方法によって被告市場に取り次がれていた。
6 前記のとおり、協和物産をはじめとする取引員から被告市場へ取り次がれた取引は、同一業者の売り注文と買い注文とが同数量の「バイカイ付け出し」の方法によるものが大半であったが、これは、取引員が顧客から委託を受けるなどして顧客の計算による取引を被告市場に取り次ぐ場合、そのほとんどすべてについて、顧客の計算による取引と反対の自己の計算による取引を行なうこととし、売りと買いを同数量にしたうえで注文を出していた(いわゆる「向い玉」)ことによるものであった。このように、取引員は、常時「向い玉」を建てることによって、顧客から保証金名下に金員の預託を受けていた場合であっても、前記の被告市場との契約に従い被告市場に対する保証金預託の義務を免れることができた。
被告藤嶋は、被告会社の代表取締役として、取引員の被告市場に対する注文のほとんどすべてが売り買い同数のものとなっており、これが顧客の注文に対し取引員が逐一「向い玉」を建てた結果であるという被告市場の実態を把握・認識していた。
7 社団協会及び中央貴金属が開設していた市場の取引員と被告市場に加盟する取引員の多くは共通していたが、社団協会及び中央貴金属当時から取引員とその顧客との間で紛議が続出しており、顧客から取引員及び社団協会ないし中央貴金属を相手どって訴訟が提起される事例が数多く生じていた。
殊に、中央貴金属による市場開設時には、顧客を被害者とする取引員の詐欺事犯に関して同市場及び取引員に対して警察による捜索も数回実施されていた。また、社団協会が開設するような私設の金取引市場の取引員である業者には、利益が確実であると申し向けるなど顧客を強引に勧誘したり、顧客に無断で取引を行なうなど、営業活動に問題があるとして度々新聞報道がなされていたこともあって、被告藤嶋は、取引員の顧客に対する勧誘行為などその営業活動に問題のあることを認識していた。
三原告は、被告市場において行なわれている「現物条件付保証取引」と称するパラジウム取引は、商品取引所法二条四項にいう先物取引にほかならず、許可なくこのような取引を行なう市場を開設・運営すること自体、同法八条一項に違反する違法な行為であると主張するので、この点につき判断する。
1 被告市場において行なわれていた「現物条件付保証取引」と称するパラジウム取引が、被告市場の定めた約款など一定の内規に従い、パラジウムと代金との受渡決済日を将来の一定の時期、すなわち、向こう六か月の各月末日と定めて行なわれる売買取引であって、後の転売または買戻しにより差金の授受によって決済することができるものであることは、前記認定のとおりであり、その実質は商品取引所法二条四項が規定する先物取引にほかならないというべきである。
被告らは、「現物条件付保証取引」は、当初から転売買戻しによる差金決済が予定されていない取引であるから、先物取引と異なるものである旨主張するが、被告市場における取引のほとんどが差金決済により処理されていたことは前示のとおりであり、商品と代金とを現実に授受することを原則とする旨の約款は存在するものの、実態とかけ離れたものといわざるを得ず、先の判断を左右するものではない。
2 先物取引は、代金に比して少額の保証金を資金として預託するだけで売買取引に参加することができ、反対売買による差金決済を行なうことによって短期間に大きな利益を上げることが可能であるし、逆に多額の損失を被る虞も少なくない、いわば射倖的契約構造を持つものである。このような取引が組織的、継続的に行なわれれば、過当な投機や不健全な取引を誘発する可能性を否定できず、取引の仕組や相場に十分な知識を持たない、いわば投機の不適格者が多数、取引に誘引されて不測の損害を被り、ひいては社会的混乱を惹起させる危険性も大きいものといわなければならない。
このような弊害の発生は、先物取引を行なう商品市場類似の施設一般において予想されるところであるから、商品取引所法八条一項は、これを回避するために、厳重な法規制によって制度・組織が整備され、取引の公正さが担保された取引所においてのみ先物取引を許容した趣旨に出たものである。そして、右弊害が発生する危険性は、当該取引所において取り扱われる商品が政令指定商品か否かとはかかわりがないというべきであるから、同法条は、取扱商品の政令指定のいかんを問わず先物取引を行なう商品市場類似の施設の開設を一般的に禁止したものと解するのが相当であり、したがって、被告市場におけるパラジウム取引は、これに違反する違法なものというべきである。
被告らは、商品取引所法が先物取引市場類似施設の開設を禁止した趣旨は、上場された商品の取引を商品取引所に集中させることにあると主張するが、同法九二条ないし九四条などの規定の趣旨からみて、同法が商品取引における委託者の保護を主要な目的の一つに置いていることは否定できないのであるから、その取扱商品が政令指定商品ではないという理由により、右にみたような危険性を内包する先物取引とこれを行なう私人が開設した市場類似の施設とが、何らの法規制も受けないというのは不合理というほかない。
四原告は、被告市場におけるパラジウムの価格形成は、取引員である加盟業者の恣意に任された不公正なものであり、協和物産も原告らに損失を生ずるように価格の操作を行なっていたと主張するので、この点について検討する。
1 多数の売り手・買い手がセリに参加して売買を成立させる市場類似の施設において、公正な価格形成が行なわれているというためには、売り手・買い手が各人の需要に応じた数量・価格による注文を発して相互に競争を行ない、その結果として両者のバランスがとれた段階で売買が成立し価格が決定されている必要があるといわなければならない。
ところが、被告市場においては、前示認定のとおり、値決めが行なわれていた立会いの場に取引員から実際に注文が出され、価格決定に影響を及ぼすこととなる取引の数量が極めて僅少で、数枚程度に過ぎない場節が多く、しかも同一の取引員から出された売り・買い同数量の注文のみによって価格が決定されている場節が多いことから、「バイカイ付け出し」の方法によるものも含めた被告市場におけるパラジウムの全取引数量、出来高を反映したものとはなっていない。このことから、被告市場の取引員らは、顧客から委託を受けるなどして取引を行なう意図があるにもかかわらず、立会いの場に注文として当該取引の全部またはその大半を取り次ぐことを故意に避けており、被告市場の価格決定に影響の及ばない「バイカイ付け出し」の方法を積極的に利用していたものであり、立会いの場において自由競争に基づく公正な価格形成が行なわれていたものとは到底認められないところである。
パラジウムのような貴金属は換金性が高く、腐敗せず半永久的な保存も可能であることから、その先物価格は、概ね現物価格と金利と保管料の合計額となるように推移するはずであり、金利と保管料は、期間が経過すればするほど増加していくのであるから、受渡決済日が後に訪れるものの価格が先に訪れるものの価格を上回る蓋然性が高いはずであるにもかかわらず、<証拠>によれば、被告市場におけるパラジウム先物の価格には、むしろ、受渡決済日が後のものよりも、先のものの方が価格が高くなっている、いわゆる逆ざやが生じている場節を散見することができる。
こうした現象は、被告市場における価格が、多数当事者が参加した自由な価格競争に基づいて形成されたものでないことの一証左であるということができる。
2 しかしながら、他方、<証拠>によれば、原告らの計算による取引が行なわれ、かつ立会いの状況が明らかな前記の二四場節について、当該取引の対象となった限月のパラジウムの価格を、直前の場節の価格(当該場節がその日の最初の場節である場合は、その日の前記「基準価格」)と比較してみると、新規の取引が行なわれた一三場節のうちで、被告市場における価格が上昇しているにもかかわらず原告らの買いが建てられている場節、同じく価格が下落しているにもかかわらず原告らの売りが建てられている場節は、合計四場節に過ぎず、このうち協和物産が実際に立会いの場に注文を出したのは三場節に過ぎないこと、また、原告らの転売・買戻しによる仕切の取引が行なわれた一三場節のうち、右取引の結果原告らに損勘定が生じた場節は八場節あるが、このうち被告市場の価格が下落しているにもかかわらず、原告らの売り注文による仕切が行なわれた場節、同じく価格が上昇しているにもかかわらず原告らの買い注文による仕切が行なわれた場節は、合計二場節に過ぎず、このうち協和物産が実際に立会い場に注文を出したのは一場節に過ぎないことが認められる。
右の事実に照らすと、原告らの計算による取引の行なわれた場節全般において、被告市場におけるパラジウムの取引価格が、原告らに損失が生じるような値動きの傾向を示しているとまではいえず、結果として原告らに損失を生じさせるような値動きを示していると認められる場節をみても、協和物産が実際に被告市場の立会いに注文を出していない場節もあり、このような場節では被告市場における価格形成に協和物産が影響力を行使したとはいえない(右各場節のセリに実際に注文を発した協和物産以外の被告市場の取引員と協和物産との間の共謀関係を認めるに足りる的確な証拠もない。)のであるから、協和物産が顧客である原告に損害を与えるべく恣意的な値決めを行なっていたとまで断定することは困難である。
五協和物産と原告らとの間の取引の経緯(請求原因4(一)の各事実)について判断する。
1 <証拠>によれば同(2)の事実が、<証拠>によれば同(3)の事実が、それぞれ認められる。
<証拠>は、右各証拠に照らして採用できず、その他に右認定に反する証拠はない。
2 右認定の事実によれば、協和物産の社員は、いずれも執拗かつ強引な勧誘により(手元不如意の亡嶋根、原告岩田に対しては、金融業者からの資金融資の斡旋までして)、その投機的性格、危険性につき十分な説明を行なうことなく、かえって利益が確実であるなどと述べて、原告らを被告市場におけるパラジウムの先物取引に引き込んでいたものというべきである。
また、原告らの計算による各取引のいずれについても、協和物産において原告らにまったく無断で行なわれ、事後的にその承諾をとりつけたものか、あるいは、利益が確実であると称したり、あるいは損害を回避するために必要であるなどと強く勧めたうえで行なわれたものであり、原告らは被告市場におけるパラジウムの先物取引の内容についてまったく知識を有しておらず、協和物産の社員から与えられる一方的な情報・指示にいうがままに従って取引を行なっていたに過ぎなかったというべきである。
3 さらに、協和物産をはじめとする被告市場の取引員が顧客の計算で行なわれる取引のほとんどすべてについて「向い玉」を建てていることは、既に認定したとおりであるが、このように取引員が顧客の注文と反対の同数量の注文を同時に被告市場に取り次ぐとすると、顧客の被告市場における取引により損失が生ずれば取引員には同額の利益が生じるとともに、顧客に利益が生じれば直ちに取引員に同額の損失が発生することを意味するのであるから、常に顧客と加盟業者の利害が完全に対立することとなるのは明らかである。
もっとも、このような場合であっても、顧客が被告市場における取引の内容を理解し、取扱商品の値動きその他の状況についても十分な知識・情報を得たうえで、自分自身の自由な意思に基づき、例えば指し値をするなどして取引員に注文の取次を求め、その結果として被告市場において顧客の計算による売買が成立したというのであれば、いちがいに「向い玉」それ自体を違法な行為と評価することはできないであろう。
しかしながら、先にみたとおり、原告らは、いずれも被告市場におけるパラジウムの取引に関する知識に乏しく、協和物産の社員の強引な勧誘に従って取引を行なっていたもので、甚しい場合、協和物産が原告らに無断で原告らの計算による取引を行なっていたもので、原告らの取引のいずれをとっても、協和物産の側が主導権を握って顧客である原告らに当該取引を行なうよう仕向けていたものといえるのである。
そして、取引員と顧客との関係、取引の経緯が、このような実態の場合にあっては、取引員が顧客の注文に関し逐一「向い玉」を建てる目的は、当該取引を通じて自己の利益を取得することとその反面として顧客に損失を被らせることにあり、顧客に建玉をさせた後にこれを仕切るよう強く勧誘し、あるいは無断で建玉を仕切ってから顧客の承諾を強引に取り付けたりするのも、右目的実現の一環として顧客に損勘定が生じる時期を選択してこうした行動に出たものと推認するのが相当である。なぜなら、企業として利益を上げることを目的とする取引員が、営業活動の一環として顧客を取引に誘引している以上、必然的に自らに過大な損失を招くような取引を強く勧めたり、あるいは、その事後承諾を強引に取りつけたりしたものとはおよそ考えられないからである。取引員は、本来、顧客の利益を考慮して誠実に行動すべき責務を負っているというべきであるが、「向い玉」を建てることによって顧客と利害が相反する立場になるのであり、このような取引員に対し、顧客の利益を考慮した行動を期待することはもともと無理な話である。
被告市場における相場価格が偶然の要素によって左右される余地を残しており、顧客を取引に引き込む当初の段階では、取引員に利益が生じ顧客が損失を被ることが必ずしも確実でないとはいえても、顧客に対し利益相反の事情を秘したうえ、相場価格がいったん原告らに損勘定が発生するような状況となってから、その時期を選んで原告らに取引を行なうよう勧めたり、無断で行なった取引の承諾を取りつけ、結果として顧客に対し損害を被らせた場合には、全体として詐欺的行為と評価するほかはなく、協和物産の所為は不法行為を構成するというべきである。
六以上の認定をもとに、被告らの責任の存否について判断する。
1 先物取引が、少ない資金で多額の損益が生じる可能性の高い射倖的契約構造を持つものであり、そこでは往々にして適当な投機や不健全・不公正な取引が誘発されかねず、取引員による強引な勧誘によって投機に不適格な者が取引に参加してきて不測の損害を被る危険性の大きなものであること、したがって、継続的かつ大量の先物取引を行なう市場類似の施設は、市場の運営や加盟取引員の営業活動の適正さを確保するために、商品取引所法の法的規制のもとにおかれ、監督官庁による厳正な監査が実施されるべきことは、先に述べたとおりである。
商品先物取引を扱う私設の市場類似の施設は、法的規制が及ぼす市場運営の適正を期し難いのであるから、前記のような先物取引の顕著な弊害・危険性に鑑みると、そもそも、このような違法な施設を開設・運営すること自体を回避すべきであるし、監督官庁の監査など市場運営の適正を確保するための保障を欠いているから、少なくともこれに代わり得るだけの制度を整備し、加盟業者が自己の利益を図って顧客に対する損害を及ぼすことのないような万全の措置を講じたうえでなければ、市場を開設・運営するべきではない。このような配慮を欠き、弊害発生のための対処が不十分なまま、市場類似の施設を開設・運営して取引員に先物取引を行なわせ、取引員が一般から顧客を勧誘して先物取引に参加させることを容認するようなことは許されないものというべきである。
殊に、被告市場においては、協和物産を始めとする取引員が顧客の注文のほとんどすべてに「向い玉」を建て、顧客と取引員との利害が相反するという状況が常態化するとともに、中央貴金属による市場開設時から取引員と顧客との間で紛議が多発しているのであるから、このことを認識している被告藤嶋としては、被告市場を開設・運営する被告会社の代表者として、本来顧客の委託を受けてその注文を執行し、その利益を考慮して誠実に行動すべき取引員にその責務を全うすることが期待できず、かえって本件原告らに対する協和物産のように、自己の利益を図り顧客を操縦して損失の生じるような取引を仕向ける蓋然性が高いことを当然に予測すべきであり、このような被告市場の異常な常態を速やかに解消させるとともに、右状況を利用して取引員が不正行為に及び顧客に損害を与えることのないよう適切な監督措置を実施すべき注意義務を負っているものといわなければならない。
ところが、被告藤嶋は、被告会社代表者として、特段顧客保護のための方策を実施することもなく、取引員による「向い玉」を放置するとともに、注文が売り買い同数の場合には被告市場への保証金の預託を免除する契約を各取引員との間で締結することによって、むしろ取引員に「向い玉」を建てやすくする積極的誘因を与えたとさえいえるのであるから、右注意義務に違反していることは明らかである。そして、右注意義務違反と協和物産の前記不法行為との間には相当因果関係があるものといえるから、被告藤嶋は、原告らに与えた損害についても損害賠償の責を負わなければならない。
ちなみに、<証拠>によれば、農産物の商品取引を扱う公設の市場においては、農林省農林経済局長、同食品流通局商業課長からの通達により、委託者保護を目的として、商品仲買人による「向い玉」を禁止し、この点に関する監査を各取引所が十分に行なうこととし、その前提として「向い玉」か否かに関わりなく、商品仲買人の計算による建玉(自己玉)自体についても一定の数量的規制を実施していることが認められる。このことからも、被告市場を開設する被告藤嶋が、「向い玉」の顕著な弊害を認識し、これを制限するための適切な措置を講じるべきであったことは明らかというべきである。
2 なお、<証拠>によれば、被告市場では、被告市場における取引について、元本保証はないこと、絶対に損をしないと確約することは困難なこと、過当な勧誘がなされたとしても取引は顧客自身で判断して行なって欲しいことなど、その危険性を告知し注意を促す内容のパンフレットを作成して取引員に配布し、これを取引を行なう顧客に対して交付するよう指示するなどの措置をとっていたこと、被告市場には市場資格審査委員会が設置されており、取引員となるためにはその審査を経なければならなかったことが認められる。
しかし、右のような措置は、中央貴金属による市場開設当時に行なわれていたこととかわるところはなく、取引員と顧客との間で紛議が生じるようになってから新たな対応をとったと認めるに足りる証拠はない。右資格審査委員会の審査にしても、加盟を申請した者に関する特段の調査を行なっているわけではなく、もっぱら風評を参考に入会の拒否を決しており、地元の取引員である委員が推薦すれば大体は加盟が許可されていたことが、前示の証拠から窺えるから、不適格者を取引員から排除するという資格審査本来の機能を果たしていたものか疑わしいところである。
いずれにしても、被告市場において、取引員が「向い玉」を建てることによる顧客との間の利益相反状況の常態化を解消するための措置を何ら実施してこなかった以上、被告藤嶋が被告市場を開設・運営する者として顧客らに対する損害発生の防止のために十分な注意義務を尽くしたものということはできない。
3 被告会社は、被告市場の開設・運営を主要な事業活動としているのであるから、被告藤嶋は代表者として職務を行なうにつき右不法行為により原告らに損害を与えたものといえる。したがって、被告会社も、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項に基づき原告らに対し損害賠償責任を負う。
七原告らの損害額について判断する。
1 請求原因6(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 同6(二)について判断するに、原告らが、弁護士である原告ら代理人に本件訴訟提起・追行を委任し、相当額の着手金及び報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すれば、原告らが請求する弁護士費用の額(亡嶋根一七六万二九〇〇円、原告古谷一二八万円、原告岩田一一九万円)は、本件不法行為と相当因果関係のある費用額の範囲内にあるものと認めることができる。
3 同6(三)のうち、亡嶋根が昭和六三年六月二二日死亡し、同人に生じた被告らに対する損害賠償請求権を、原告嶋根ふみが二分の一、原告嶋根勝一、同石田洋子はがそれぞれ四分の一ずつ相続して承継した事実は弁論の全趣旨から、これを認めることができる。
八以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告らの請求は理由があるから、全部これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石垣君雄 裁判官高野伸は転任につき、裁判官吉田徹は転官につき、いずれも署名押印することができない。裁判長裁判官石垣君雄)
別紙<省略>